許可証

「もーええ、もーええ。はよ結婚せぇ」

と、影文の親は言うらしい。

先日東京に出てこられたときにも、お店に顔を出してくださった。

ああ、それなのに。



うちの父はもう亡くなっているのだが、母は神戸で健在。

二人の結婚を唯一反対しているのがこの母である。

影文が定職についていないというのがメインの理由で、あとは私が神戸に帰るチャンスが

なくなるのが第2の理由である。





影文は宣言どおり、神戸の私の実家へ向かう段取りをした。

私が母と連絡をとり日程を決めた。

私が決めたのは本当にそれだけで。



影文は土産物まで自分で買ってきた。

影文出身の京都のものではなく、東京のお菓子をお土産にした。

そして出張用の一張羅を着込んで、新幹線の切符まで取って私に「行こう」と言った。

さすがにここまで段取られると、何も言うことがない。



新幹線の中で。

「さすがだね」

「何が?」

「段取り」

「だって、お前に任していたら、俺、一生お前と結婚できないだろう」



緊張してお茶ばかり飲んでいた。影文も実はそう。

でもこうしてようやく神戸の実家に行けることに大きな喜びを抑えきれない。



・・・



神戸の実家についた。

母は「遠いところをわざわざ」などと言う。

影文はきちんと挨拶をして、茶の間に向かった。

そう、応接室なんて洒落たものはない。小さな2階建ての家だ。



「単刀直入に申し上げますが、お嬢さんを僕にください」

影文は頭を下げた。

かなり直球だが我が母も直球できた。

「基本的には反対しております。あなたが定職におつきでないからです」



「その件はお伺いしています。私は現在若干不安定な身分ですが、この春にお義母さんの

お望みの定職につく予定です」



初耳である。私が慌てると影文が目で制した。



「僕の友人の紹介で編集プロダクションの会社に入れることになりました」

「あら、そうなんですか!」

「そんなの知らないよ!」



二人同時に声が出た。母は驚いているが、私の方が超ビックリだ。

「まあ、そんなに大きな会社ではないのですが、この歳で採用して貰えることになりました」

「まあ、お茶でも淹れ直します」

と、母が台所へ消えた。



「知らなかった」

「一昨日本決まりだったからね」

影文が小声で教えてくれた。



・・・


「でももうひとつだけ」

母がお茶を持ってきて、切り出した。

「この子は近い将来、お店をたたんで神戸に帰ってこさせようと思っていたのですが」

「その点だけは僕としましては、どうしてもお譲りすることができない条件なのです」



緊迫した空気が流れそうになったとき、影文が言った。

「お義母さんが東京にきてくださると、一番僕たちとしてはありがたいんですけどね」

結構な殺し文句だが、母は黙ったままお茶をすすっている。



「わかりました。ただ私は神戸を離れるつもりはありませんので、あなたが定職に

ついてからもう一度お話しましょう。

私も時間が掛かりますが、もう少しあなたという人物について知りたいです。

大切な娘を託すのですから」

「ごもっともです」



ふぅーと、私が漏らしたため息に二人が笑った。

いや、笑ってる場合じゃないでしょう。二人とも。



「絶対にお嬢さんを幸せにします」

「口が軽い男は嫌いです」


そう言い合って笑う二人に、まったくついていけない私であった。



・・・



帰りの新幹線にて。



「長期戦になりそうだね」

「うん」

「まさか、就職決めて振られるとは思わなかったよ」

「あれで振ってはいないんだけど・・」

「なんとなく分かる。お前見てると」



私がため息をつくと、影文は私の頭を抱き寄せて言った。

「俺が負けると思う?なんなら神戸に住んでもいいぞ」

「影文・・」

「まあ、そうなると就職がヤバイからな。なんとか東京暮らしで納得して貰うまで諦めない。

とにかく、お前の家に転がり込むから一緒に住むだけは住もう」

「うん。わかった」



影文の就職は決まった。母にも挨拶した。あとは私が・・

「親父とお袋にちゃんと会うか?」

「うん」

「よし。それで決まりな」



私の騎士はどこまでもたくましくできているのであった。


おわり


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テーマ:ショート・ストーリー - ジャンル:小説・文学

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