青色のコート~かげふみ外伝~
「お前、髪切ったな」
「分かる?」
「分かるに決まってるやろ」
「意外によく分かってるね」
と言いたいところだが。
髪を切ったのは一昨日。昨日一緒に買い物に行ったのに・・。
まあ、そんなものだろう。男の人なんて。
それよりも。
「本当はね。あなたに内緒で買ったものがあるの。
まあ見て」
私はコートを着てみる。
水色である。影文はどうしても青がいいと言い張ったのだが。
影文は知っている。昨日、私がどうしても欲しかったコートだ。
既にタンスの肥やしとなっている青色のコートがある。
確かにもう時代遅れ。影文が買い換えろというのは分かる。分かるけど。
影文には内緒だが、このコートには思い入れがあるのだ。
母に買って貰った。
結婚に消極的な母のことを、影文は実はよく思っていない。
当然だ。
だから私も黙っている。
一緒に見た。二人で見た。
水色のコートと青いコートで悩む。
私が水色がいいと言うと、影文は青でいいと言い張る。
ただ、影文はやはり拘っている。
私、そんなに昔の青色のコートに執着していない。思い入れがあるだけだ。
それなのに。
影文は意地でも、水色ではなく青いコートを買わせたいらしい。
まあ、分からないでもないけれど。
「お前は俺のいいなずけ。それくらい知ってても当たり前。
お前、青色がええんやろ」
うーん、見当違いなのだが。
そして私は。
「またいいなずけ?婚約もしてないのに」
と言い返す。
・・・
「お前、あの指輪どないしてん?」
「あれはね・・大切にとってあるの」
「お前、またか。いい加減に使え。
俺が買ってやった指輪、また口紅みたいにするんかい」
私は思い出す。そう言われればそう。3日も出てこなかった。
店のエプロンから出てきた淡いピンク色の口紅。影文が誕生日に買ってくれたもの。
「ごめん。ちゃんとする。きっとする。もう今すぐするね」
私は中指にオパールの指輪をはめる。安物。はっきり言って。
でも嬉しい。だけど・・
「安物で悪かったな」
ああ、またひとり言。本当にこの癖、なんとかならないかな。
オパールの指輪は秋に買ってもらった。
私は指輪をそっと外す。だって勿体ない。
「お前、その癖は本当にやめろ」
影文が私の手をとって、中指にそっとはめる。左手の中指。
オパールの指輪。そしてオパールに似たムーンストーンのネックレス。二つ揃った。
・・・
「影文、私に隠してることあるでしょ?」
「別に隠すことなんか全くない」
「へぇ、そうなんだ」
私は知っている。影文が私のいきつけの美容室の女の子を気に入っていること。
そして昨日、私が買ったシャンプー。影文が内緒で使ったことを。
その子のお勧めで買ったもの。だけど影文はやっぱり男。
いくらなんでも、小林さんのお勧めだと言ってもさすがにヤバイ。
「影文。あなた仮にも男でしょ?しっかりしなさい」
小林さん。かわいい。色っぽい。でもどこかギャルっぽい。
本人には内緒だけど。でもすごくいい子。
「お前、妬くな」
「別に妬いてない。だけど、小林さんのお勧めだからと言って、勝手に使うのはやめて。
というか、さすがに女物のシャンプーを使うのはやめなさい」
「ごめんごめん。それは謝る。だからその指輪、毎日つけろ」
私だって毎日つけたい。でも小料理屋の仕事がある。
なくしたら嫌だ。絶対に嫌だ。
「だ、か、ら。嫌じゃない!つけろ。毎日つけろ。
俺と指輪のどっちが大事かよく考えろ」
嫌だ。でも素直になれない。
小林さんのシャンプーとは訳が違う。
「違わない。お前、もう分かった。勝手にしろ、と言いたいが使え。
絶対に使え」
使おう。やっぱり大切にし過ぎて失うのはもう嫌だ。
影文もシャンプーも、そして指輪も。
・・・
そして私はコートをはおる。似合ってるかな。どうかな。判定は・・
「似合ってる。似合っているよ。前のコートよりずっといい。
あれ、やっぱり時代遅れ。勿体ないけど、タンスの肥やしにしておけ」
「分かった。肥やしにする。大切に育てる」
「何を育てるねん」
さて、何を育てよう。
青いコート、さようなら。水色のコート、こんにちは。
青いコートは懐かしい思い出。大切なタンスの肥やし。
私に必要なのは、今はお店と影文だけ。店の名は「かげふみ」。
「俺の名前は影文。小料理屋かげふみとそのいいなずけの影文だ。
あーあ、お前には参った。もう降参」
もう降参。本当にもう降参。
私のひとり言は一生直らない。そしてかげふみと影文に夢中だ。
今のところ、ね。
おわり
【一言】
新カテゴリー「かげふみ」、絶賛更新中!
絶賛かどうかは微妙ですが 本人は気に入っています
これからもよろしくねv
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「分かる?」
「分かるに決まってるやろ」
「意外によく分かってるね」
と言いたいところだが。
髪を切ったのは一昨日。昨日一緒に買い物に行ったのに・・。
まあ、そんなものだろう。男の人なんて。
それよりも。
「本当はね。あなたに内緒で買ったものがあるの。
まあ見て」
私はコートを着てみる。
水色である。影文はどうしても青がいいと言い張ったのだが。
影文は知っている。昨日、私がどうしても欲しかったコートだ。
既にタンスの肥やしとなっている青色のコートがある。
確かにもう時代遅れ。影文が買い換えろというのは分かる。分かるけど。
影文には内緒だが、このコートには思い入れがあるのだ。
母に買って貰った。
結婚に消極的な母のことを、影文は実はよく思っていない。
当然だ。
だから私も黙っている。
一緒に見た。二人で見た。
水色のコートと青いコートで悩む。
私が水色がいいと言うと、影文は青でいいと言い張る。
ただ、影文はやはり拘っている。
私、そんなに昔の青色のコートに執着していない。思い入れがあるだけだ。
それなのに。
影文は意地でも、水色ではなく青いコートを買わせたいらしい。
まあ、分からないでもないけれど。
「お前は俺のいいなずけ。それくらい知ってても当たり前。
お前、青色がええんやろ」
うーん、見当違いなのだが。
そして私は。
「またいいなずけ?婚約もしてないのに」
と言い返す。
・・・
「お前、あの指輪どないしてん?」
「あれはね・・大切にとってあるの」
「お前、またか。いい加減に使え。
俺が買ってやった指輪、また口紅みたいにするんかい」
私は思い出す。そう言われればそう。3日も出てこなかった。
店のエプロンから出てきた淡いピンク色の口紅。影文が誕生日に買ってくれたもの。
「ごめん。ちゃんとする。きっとする。もう今すぐするね」
私は中指にオパールの指輪をはめる。安物。はっきり言って。
でも嬉しい。だけど・・
「安物で悪かったな」
ああ、またひとり言。本当にこの癖、なんとかならないかな。
オパールの指輪は秋に買ってもらった。
私は指輪をそっと外す。だって勿体ない。
「お前、その癖は本当にやめろ」
影文が私の手をとって、中指にそっとはめる。左手の中指。
オパールの指輪。そしてオパールに似たムーンストーンのネックレス。二つ揃った。
・・・
「影文、私に隠してることあるでしょ?」
「別に隠すことなんか全くない」
「へぇ、そうなんだ」
私は知っている。影文が私のいきつけの美容室の女の子を気に入っていること。
そして昨日、私が買ったシャンプー。影文が内緒で使ったことを。
その子のお勧めで買ったもの。だけど影文はやっぱり男。
いくらなんでも、小林さんのお勧めだと言ってもさすがにヤバイ。
「影文。あなた仮にも男でしょ?しっかりしなさい」
小林さん。かわいい。色っぽい。でもどこかギャルっぽい。
本人には内緒だけど。でもすごくいい子。
「お前、妬くな」
「別に妬いてない。だけど、小林さんのお勧めだからと言って、勝手に使うのはやめて。
というか、さすがに女物のシャンプーを使うのはやめなさい」
「ごめんごめん。それは謝る。だからその指輪、毎日つけろ」
私だって毎日つけたい。でも小料理屋の仕事がある。
なくしたら嫌だ。絶対に嫌だ。
「だ、か、ら。嫌じゃない!つけろ。毎日つけろ。
俺と指輪のどっちが大事かよく考えろ」
嫌だ。でも素直になれない。
小林さんのシャンプーとは訳が違う。
「違わない。お前、もう分かった。勝手にしろ、と言いたいが使え。
絶対に使え」
使おう。やっぱり大切にし過ぎて失うのはもう嫌だ。
影文もシャンプーも、そして指輪も。
・・・
そして私はコートをはおる。似合ってるかな。どうかな。判定は・・
「似合ってる。似合っているよ。前のコートよりずっといい。
あれ、やっぱり時代遅れ。勿体ないけど、タンスの肥やしにしておけ」
「分かった。肥やしにする。大切に育てる」
「何を育てるねん」
さて、何を育てよう。
青いコート、さようなら。水色のコート、こんにちは。
青いコートは懐かしい思い出。大切なタンスの肥やし。
私に必要なのは、今はお店と影文だけ。店の名は「かげふみ」。
「俺の名前は影文。小料理屋かげふみとそのいいなずけの影文だ。
あーあ、お前には参った。もう降参」
もう降参。本当にもう降参。
私のひとり言は一生直らない。そしてかげふみと影文に夢中だ。
今のところ、ね。
おわり
【一言】
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絶賛かどうかは微妙ですが 本人は気に入っています
これからもよろしくねv
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テーマ:ショート・ストーリー - ジャンル:小説・文学